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◆太陽の雫◆


「おい。調子はどうだ?」



ぶっきらぼうに尋ねながら、君がベランダにやってきた。




うん。もう大丈夫。

ありがとう。




僕は君に微笑みながら返事を返す。



「悪かったな。ついててやれなくて」



君は少し落ち込みながらそう言って、僕を見下ろした。




そんなの、しょうがないよ。

ご両親が交通事故に遭われたんだから。

僕は1人で大丈夫だったしさ。




それでも君は、なお辛そうに僕を見つめる。



「本当に、どうして俺はこんな時に限って

家を空けなきゃならなかったんだろうな…」




うん。しょうがないよ。

人生こういうもんだって。

今回はちょっとタイミングが悪かっただけ。

君は何にも悪くないんだから。




それより、君が今持ってるそのお水を頂戴よ。

喉が渇いて干からびそうなんだ。





君は少しの間じっと僕を見つめ続ける。

やがて吹っ切ったように顔を上げ

僕に水を差し出した。






そしてグラスを傾ける。




「よし、飲め」




そして僕は頭から

君のくれる水を浴びるんだ。


夕暮れの太陽に

赤く縁取られた水の粒。


君を見上げる僕に向かって

優しくゆっくり落ちてくる。





あ、冷たい。





刹那の歓喜。



そして僕はそっと

目を閉じる。





僕を見下ろす君の目に映るのは






隣室のネコの悪戯で

土から放り出された

一つのサボテン



枯れてしまった

一つのサボテン



君が亡くした

最愛の人と



「死ぬまで一緒に育てよう」



そう約束した

一つの小さなサボテン






たった一つの小さな約束