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◆大きな栗の木の下で◆


しかし、バケットさんと思われる人影は

リサが想像していたより遠くにいたようで、

後姿は時々ちらりちらりと見えるのだが、

肝心の二人の距離が全く縮まらない。



追いかけ始めた最初の内は


バケットのおばあちゃんって、歳の割りになかなかやるわねっ


と、無駄に対抗心を燃やしていたリサだったが、

30分ほど追いかけても全く彼女に追いつけないことに対して、

そろそろ理不尽な苛立ちを感じ始めていた。


なんで追いつけないのよ!!おばぁちゃんの癖にっ!!




だんだん息も荒くなってきたし、

気づいたら帰り道が解らないところまで来てしまっている。


真剣に焦りを感じたリサは思わず人影に呼びかけた。



「ねぇっ!ねぇってば!!

ちょっと待ってよ!!」


その声が聞こえたようだ。


人影はビックリしたように自分の背後を振り返った。


そして二人がお互い目にしたもの…。


……それは……












少女の瞳には、見知らぬ“少年”。



少年の瞳には、いるはずのない“人間”。







































「あなた、だぁれ?」







二人の間の沈黙を破ったのは、リサだった。




リサは目の前の少年から目を離すことができなかった。


なぜなら、少年は、今までリサが見たこともないような姿・形をしていたから…。


黒髪に黒い瞳、茶色の肌を持ち、それが当たり前の環境で育ったリサにとって、


金髪に青い瞳、真っ白な肌をした少年は


あまりにも異色だった。





リサの質問からしばらく…

ようやく少年が口を開いた。


「…えっと……。君こそ、誰?」


「あ、あぁそうね。

人に名前を聞く時はまず自分からって

母さんも言ってたわね。」


いけない、いけない…。


ちょっと下を向きつつ呟いたリサは

顔を上げると、やや胸を張りつつ少年に向き直った。


「あたしはリサ。

この森の外にある村に住んでるんだけど、

あなたは誰?

この村の人じゃ、ないわよね?」



聞かれて少年は困ったように唸った。



「う〜ん。。。

なんて説明したらいいんだろう…。

僕はルイって言って

実は昔からこの森に住んでるんだけど……」



少年はそこで言葉を途切れさせ、考え込む表情をした。


……が。

その言葉を聞いた途端、リサは幼い瞳を輝かせた。



「妖精さんね!!?」



そう、リサは彼の事を

いつも婆さま達から聞かされる栗の木に住む妖精だと理解したのだ。



なぁんだ。

婆さま達はいっつもあんなこと言って脅かすけど、

妖精さんってこんなに優しそうじゃない。

きっと婆さま達も、本当の妖精を見たことがなかったんだわ。



一人納得してニコニコと笑うリサを不思議そうに見やりつつ、

まぁいいや。と呟いた少年はリサに尋ねた。



「リサはどうしてこんな所にいるの?」





それを聞いた途端、本来の目的を思い出したリサはハッとなった。



「いっけない!!バケットさんにお野菜持って来たんだった!!」


それを聞いた少年は、呆れたようにリサを見やった。


「それでなんでこんな所に来たのさ?」


何となく馬鹿にされた気がして、リサは気分を悪くしながら答えた。


「しょうがないじゃない。

折角野菜持って来たのにバケットさんがいなくって、

どうしようかな、って思ってたら遠くにあなたが見えたんだもの。

バケットさん以外に森に人がいるなんて思いもしなかったから

てっきりバケットさんだと思っちゃったのよっ。」


リサよりやや年長の少年は自分より幼いリサの抗議を微笑みながら受け止めた。


「そっか。じゃぁ仕方ないね。

バケットさんなら、多分医者に行ってるんじゃないかな。

昨日体がだるくて仕方がないって言ってたし。」


「なぁんだ。

折角来たのにな〜…。」


つまらなさそうに呟くリサに、ルイは尋ねた。



「それよりリサ、君はここから一人で帰れるの?」



それを聞いてリサは心底不思議そうな表情を浮かべた。



「なぁぜ?

こんな所からあたし一人で帰れるわけないじゃない。

あなたが麓まで送ってくれるんでしょ?」



さも当たり前だと言わんばかりのリサの態度に、ルイは苦笑した。



「それは別にいいけどね。

でも、僕もちょっと用事があるから

夕方になるまで送ってあげられないよ?」



それを聞いてリサはにっこりと微笑んだ。


「大丈夫。あたしいっつも一人で遊んでるから。

夕方までなんて、そんなのあっという間よ。

ねぇねぇ。それよりあの大きな栗の木まで連れて行ってよ。

あそこに行ったら怖い妖精さんが子供を連れて行っちゃうって

婆さま達が言ってたけど、妖精のあなたがどこかへ行っちゃうんだったら

そんな心配いらないわけでしょ?

それにね、きっとあそこだったらずっと待っててられると思うの。」


だってあんなに大きな木なんだもの。

きっと絶対に素敵だと思うわ。


そう付け足したリサに笑い返しながら、ルイは頷いた。


「……うん。そうだね。

あそこは僕もお気に入りだし、きっとリサも気に入るよ。

僕が今から行くところもその近くだし、連れて行ってあげる。」



おいで。こっちだよ。


そう言ってルイは歩き始めた。

リサも浮き浮きとすぐ後ろへ走り寄った。



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